新リース会計基準適用で見直すべき社内プロセスと業務フロー
2021年4月以降開始する事業年度から段階的に適用が始まった新リース会計基準(IFRS第16号、企業会計基準第29号)は、多くの企業にとって会計処理や業務フローの大幅な見直しを迫るものとなっています。特に、これまでオフバランス処理されていた多くのリース取引がオンバランス化されることで、財務諸表への影響だけでなく、契約管理や情報収集のプロセスにも変革が求められています。
本記事では、新リース会計基準の概要から、適用に向けて企業が見直すべき社内プロセスや業務フローのポイントまで、実務担当者の視点で詳しく解説します。会計基準変更への対応は一時的なものではなく、継続的な管理体制の構築が重要です。適切な準備と対応策を講じることで、コンプライアンスの確保とともに業務効率化にもつなげていきましょう。
1. 新リース会計基準の概要と企業への影響
新リース会計基準は、リース取引の経済的実態をより適切に財務諸表に反映させることを目的としています。従来のリース会計との大きな違いは、借手側のリース取引の多くがオンバランス化される点にあります。この変更は単なる会計処理の変更にとどまらず、企業の財務指標や経営判断にも大きな影響を与えるものです。
1.1 新リース会計基準の主要ポイントと変更点
新リース会計基準の最も大きな変更点は、借手の会計処理において、従来のオペレーティング・リースとファイナンス・リースという区分が実質的になくなり、ほぼすべてのリース取引について「使用権資産」と「リース負債」を計上する単一のモデルが採用されたことです。
短期リース(リース期間が12ヶ月以内)や少額資産のリースについては免除規定が設けられているものの、オフィスビル、店舗、車両、IT機器など、これまでオフバランスで処理されていた多くのリース取引が資産・負債として計上されることになります。また、リース期間の見積りや割引率の決定など、新たな判断や見積りが必要となる点も実務上の大きな変更点です。
貸手側の会計処理については、従来の会計基準から大きな変更はありませんが、サブリース取引などについては新たな取扱いが定められています。
1.2 企業の財務諸表に与える影響と課題
新リース会計基準の適用により、多くの企業で総資産と総負債が増加することになります。例えば、小売業や外食産業など多数の店舗を賃借している企業では、総資産が数十%増加するケースも珍しくありません。実際に、ある大手小売業では適用初年度に総資産が約30%増加したという事例も報告されています。
財務指標への影響としては、ROA(総資産利益率)の低下、D/Eレシオ(負債資本比率)の上昇、EBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)の増加などが挙げられます。特に財務制限条項(コベナンツ)を設けている借入金がある企業では、条項への抵触リスクを事前に評価し、必要に応じて金融機関との協議を行うことが重要です。
また、リース取引の識別から測定、開示に至るまでの一連のプロセスを確立する必要があり、特に多数のリース契約を有する企業では、契約情報の収集・管理体制の整備が大きな課題となります。
2. 新リース会計基準適用に向けた社内プロセス見直しのポイント
新リース会計基準に適切に対応するためには、単に会計処理を変更するだけでなく、リース契約の管理から会計処理、開示に至るまでの社内プロセス全体を見直す必要があります。ここでは、特に重点的に見直すべきポイントについて解説します。
2.1 リース契約管理体制の再構築
新基準の適用にあたっては、まず社内に存在するすべてのリース契約を把握することが出発点となります。多くの企業では、リース契約が各部門で個別に管理されており、全社的な一元管理がされていないケースが多く見られます。
リース契約の一元管理体制を構築することで、会計処理の正確性確保だけでなく、契約条件の見直しや交渉力強化にもつながります。具体的には、契約書の電子化・データベース化を進め、契約開始日、リース期間、支払条件、更新オプションなどの重要情報を一元管理できる仕組みを整備しましょう。
また、新規契約締結時や契約変更時の情報フローを明確にし、会計部門への適時な情報共有が行われる体制を構築することも重要です。
2.2 リース識別プロセスの確立
新基準では、契約がリースを含むかどうかの判断が重要になります。契約の実質に基づき、特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転するものかどうかを評価する必要があります。
このリース識別プロセスを標準化し、判断基準を明確化することが重要です。特に、サービス契約に組み込まれたリース要素の識別や、実質的な更新オプションの評価など、判断が難しい事例については、事前に評価基準を定めておくことで、一貫性のある処理が可能になります。
また、リース識別の判断に関するチェックリストやフローチャートを整備し、担当者による判断のばらつきを防止することも効果的です。
2.3 測定・会計処理の標準化
| 会計処理項目 | 主な検討ポイント | 標準化のアプローチ |
|---|---|---|
| リース期間の決定 | 更新オプション・解約オプションの評価 | オプション行使の合理的確実性の判断基準を明確化 |
| 割引率の決定 | リースの計算利子率または追加借入利子率の決定 | リース種類・期間別の標準割引率表の整備 |
| リース負債の再測定 | 指数・レートの変動、リース期間の見直し | 再測定が必要となる事象の明確化と定期的な見直しプロセスの構築 |
| 減損評価 | 使用権資産の減損兆候の識別と評価 | 定期的な減損テストプロセスへの組み込み |
| 注記情報の収集 | 定量的・定性的情報の収集 | 必要情報の洗い出しと収集プロセスの確立 |
リース取引の測定と会計処理においては、使用権資産とリース負債の当初測定および事後測定のプロセスを標準化することが重要です。特にリース期間の見積りや割引率の決定など、判断要素が大きい項目については、グループ内で統一的なガイドラインを設けることが望ましいでしょう。
また、契約変更や条件変更が生じた場合の再測定プロセスについても、明確な手順を確立しておくことが必要です。さらに、減損テストの実施方法や、リース負債の流動・非流動分類など、関連する会計処理についても標準化を進めましょう。
3. 業務フローの再設計と効率化のための施策
新リース会計基準への対応を円滑に進めるためには、業務フローの再設計と効率化が不可欠です。特に、情報収集から会計処理、開示に至るまでの一連の流れを最適化することで、業務負担の軽減とともに、正確性の向上を図ることができます。
3.1 リース情報収集フローの最適化
リース情報の収集は、新基準対応の最も基礎となる部分です。多くの企業では、契約管理部門、利用部門、財務部門など複数の部門にまたがって情報が分散しているため、効率的な情報収集の仕組みづくりが重要になります。
- 契約締結プロセスへのリース判定ステップの組み込み
- 契約管理システムと会計システムの連携強化
- 定期的な契約情報更新の仕組み構築
- 各部門の役割と責任の明確化
- 情報収集のためのテンプレート・フォーマットの標準化
特に重要なのは、新規契約締結時や契約変更時に、リアルタイムで必要情報が会計部門に共有される仕組みを構築することです。例えば、契約承認ワークフローにリース情報収集ステップを組み込むことで、漏れのない情報収集が可能になります。
3.2 システム対応と自動化の推進
新リース会計基準への対応では、多数のリース契約を管理し、複雑な計算を正確に行う必要があるため、システム対応が重要な検討事項となります。リース管理の方法としては、以下の3つのアプローチが考えられます。
1. 専用リース管理システムの導入:多数のリース契約を有する企業では、専用システムの導入が効率的です。リース契約の管理から会計処理、開示資料作成までを一元管理できるシステムを選定しましょう。
2. 既存ERPシステムの活用:ERPシステムのリース会計モジュールを活用する方法です。システム間連携の負担が軽減されるメリットがあります。
3. スプレッドシートベースの管理:契約数が少ない企業では、スプレッドシートを活用した管理も選択肢となりますが、計算式の正確性確保や、データ更新の管理体制構築が課題となります。
いずれの方法を選択する場合も、使用権資産とリース負債の計算、再測定、減損テスト、開示情報の集計などの機能が必要となります。また、システム導入後の運用体制や保守管理についても事前に検討しておくことが重要です。
3.3 開示対応フローの整備
新リース会計基準では、従来よりも詳細な開示が要求されるため、必要な情報を効率的に収集・集計するフローを整備する必要があります。
開示情報には、リース負債の満期分析、短期リースや少額資産リースに関する情報、変動リース料に関する情報、延長オプションや解約オプションに関する情報など多岐にわたります。これらの情報を適時に収集・集計できる体制を整えましょう。
また、四半期開示や年次開示など、開示のタイミングに応じた情報収集スケジュールを設定し、決算業務の中に組み込むことも重要です。さらに、開示情報の基礎となるデータの正確性を確保するためのレビュープロセスも確立しておくべきでしょう。
4. 新リース会計基準適用の成功事例と実践的アプローチ
新リース会計基準への対応は多くの企業にとって大きな課題ですが、先行して適用を進めている企業の事例から学ぶことで、効率的かつ効果的な対応が可能になります。ここでは、業種別の適用事例と段階的なアプローチについて解説します。
4.1 業種別の適用事例と成功のポイント
業種によってリース取引の特性や影響の大きさは異なります。以下に主な業種別の適用事例と成功のポイントを紹介します。
| 業種 | 主なリース資産 | 成功のポイント |
|---|---|---|
| 株式会社プロシップ 〒102-0072 東京都千代田区飯田橋三丁目8番5号 住友不動産飯田橋駅前ビル 9F https://www.proship.co.jp/ |
オフィス、IT機器 | 会計システムとの連携強化による自動化、グループ全体での統一管理 |
| 小売業 | 店舗、物流センター、車両 | 店舗別の収益性管理との連携、出店戦略への影響分析 |
| 製造業 | 工場、製造設備、倉庫 | 設備投資計画との連携、リース・購入の意思決定プロセス見直し |
| 運輸業 | 航空機、船舶、車両 | 複雑な契約条件の管理、変動リース料の適切な把握 |
| サービス業 | オフィス、IT機器、車両 | サービス契約に含まれるリース要素の識別、契約管理の一元化 |
業種を問わず成功している企業に共通するのは、会計部門だけでなく、契約管理部門や事業部門を含めた全社的な取り組みとして推進している点です。また、新基準対応を単なるコンプライアンス対応ではなく、契約管理の効率化や経営情報の充実化につなげている点も特徴的です。
4.2 段階的な移行アプローチとロードマップ
新リース会計基準への移行は、一度に完璧な対応を目指すのではなく、段階的なアプローチを取ることで、リスクを抑えつつ確実に進めることができます。以下に、典型的なロードマップを示します。
フェーズ1:影響度分析と計画策定(3〜6ヶ月)
- リース契約の棚卸しと影響額の概算
- 主要な論点の洗い出しと会計方針の検討
- システム対応の要否判断
- プロジェクト体制の構築とロードマップの策定
フェーズ2:詳細設計と準備(6〜12ヶ月)
- 会計方針の詳細化と文書化
- 業務フローとマニュアルの整備
- システム要件定義と開発・導入
- テストデータによる検証
フェーズ3:移行作業と並行稼働(3〜6ヶ月)
- 開始残高の算定
- 新旧基準の並行運用
- 開示情報の準備
- 監査対応
フェーズ4:本格運用と継続的改善
- 新基準による本格運用
- 業務フローの定着と効率化
- 継続的なモニタリングと改善
このロードマップは一例であり、企業規模やリース取引の複雑さによって調整が必要です。特に重要なのは、十分な準備期間を確保し、移行期には新旧基準の並行運用を行うことで、移行リスクを低減することです。
まとめ
新リース会計基準への対応は、単なる会計処理の変更にとどまらず、契約管理から情報収集、会計処理、開示に至るまでの業務プロセス全体の見直しを必要とするものです。特に多数のリース契約を有する企業にとっては、システム対応を含めた効率的な管理体制の構築が重要な課題となります。
本記事で解説した社内プロセスの見直しポイントや業務フローの再設計アプローチを参考に、自社の状況に合わせた対応策を検討してください。新基準対応を契機に、リース契約管理の効率化や意思決定プロセスの高度化につなげることができれば、単なるコンプライアンス対応を超えた経営改善効果も期待できるでしょう。
新リース会計基準への対応は一朝一夕に完了するものではなく、継続的な取り組みが必要です。早期に準備を開始し、計画的に対応を進めることで、スムーズな移行と安定的な運用を実現しましょう。
※記事内容は実際の内容と異なる場合があります。必ず事前にご確認をお願いします
